大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成7年(く)116号 決定

少年 Z・N(昭54.4.3生)

主文

原決定を取り消す。

本件を東京家庭裁判所八王子支部に差し戻す。

理由

本抗告の趣意は、附添人が提出した抗告趣意書に記載されたとおりであるから、これを引用〈省略〉する。

論旨は、要するに、少年に対しては、社会内処遇によって更生できる条件が整っており施設内で処遇する必要はないから、中等少年院(一般短期処遇)に送致した原決定の処分は著しく不当である、というのである。

そこで、検討するに、本件は、少年が、夜遊びを繰り返していた仲間多数と深夜ファミコンショップに押し入り、ファミコン本体、ソフトなど多数の商品を盗み出したというもの及び仲間1名と共に、深夜現金入りの財布などを載せた自動車1台を駐車場から盗み出したというものである。当時少年は中学3年生であったが、父親の躾けに反発して無断外泊、家出などを繰り返し、同学年及び1学年上の不良仲間と夜遊びを続け、その遊びの一環として、本件以外にも、自動車盗、車上荒らし等を多数回にわたって敢行していたものである。本件犯行態様は悪質であり、その動機についても酌むべき事情はない。そして、少年については、小学校のころから万引きなどの行動がみられるところ、今回も、各種態様のもとに、多数回にわたって窃盗を繰り返していること、少年には規範意識、主体性が乏しく今後その交遊関係如何によっては再犯が懸念されること、少年がこれまで家庭の監護に服さず、また少年の両親においても少年の更生のための有効な措置をとりえないできたこと、今回もファミコンショップ関係の事件につき取調べが開始されたのちも、家出状態は改善されず、コンビニにおいて万引き類似の事件を起こしていること等に照らせば、原決定が、少年の要保護性は高く、在宅による処遇は極めて難しいと判断したことは、それなりに理解できないものでもない。

しかしながら、本件の非行場面を見ると、ファミコンショップの窃盗の場合は積極的にバールを持ち出してガラスを割って侵入する者などがいるなかで少年は単に見張りをしたにすぎないし、自動車盗の場合は共犯者の誘いに応じて行動していたものであって、2件とも少年は必ずしも主導的でなかったと認められる。そして、小学校時代から万引きなどがみられるとはいえ、それが盗癖として今回の事件に直接結びついているとまでは認められないこと、不良交遊のなかで仲間の行動に安易に同調する主体性のなさや規範意識の希薄さが少年にとっての問題であることは明らかであるが、不良親和性は必ずしも高くないこと、能力的にも低くなく、定時制高校入学後は、家出同然の状態ではあったが、寄宿先から学校へ通学していたことからみて就学意欲はあると認められること、調査官の印象にもあるように具体的な指導に乗ってくる素直さを失っていない少年と認められること(これは、原審審判廷において、裁判官及び調査官の質問に対して、「少年院に言って、人に迷惑をかけないように反省し、人の倍くらい頑張ってくるつもりです。」「少年院で私が目標とすべきことは、勉学すること、これまで無断外泊をしてばかりだったので、規則正しい生活をすることであり、我慢する訓練も必要だということはよく分かりました。」などと答えていることからも窺える。)、少年にはこれまで家庭裁判所に事件が係属したことはなく、専門家による指導は一度も受けていないところ、今回身柄を拘束され、観護措置を受けるなかで、事の重大さを実感し、更生の意欲をみせるに至っていること、保護環境についても原決定を機に少年の父親らが少年の問題を自分自身の問題として受けとめ、これまでのような単に叱るだけの指導を改め、少年の自主性もとり入れたうえ、適切な指導監督を行なうよう真剣に話し合い決意を新たにしていること、実際にも被害者らに対して被害弁償を行い示談を成立させるなど、少年の更生のために具体的な行動を起こしていることに照らせば、今後の家庭の指導力には期待が持てることなどを合わせ考慮すると、少年については、社会内における専門家の指導によってその改善、更生を図る余地も十分に残されていると判断される。してみると、試験観察などにより少年の動向を観察してその可能性を検討することなく、直ちに少年に対して中等少年院送致の決定を言い渡した原決定は時期尚早というべく、著しく不当といわなければならない。

よって、少年法33条2項、少年審判規則50条により、原決定を取り消し、本件を原裁判所である東京家庭裁判所八王子支部に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 八束和廣 裁判官 門野博 原啓)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例